「ショック」について

2023年3月16日 ライブラリー

記事執筆: 救急看護認定看護師
與賀田 洋

目次

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ショックとは…

「患者さんがショック状態です。先生すぐに来てください。」

患者さんの急変時にこのようなやり取りが
あるのではないでしょうか。

患者さんの状態が急に悪くなり
ショック状態になる。

皆さん「ショック」状態とは
どのような状態をイメージしていますか?

・患者さんの顔色が蒼白になる
・冷汗をかいている
・そして何よりも血圧が低下する

以上のような症状も起こりますが
それだけではありません。

日本救急医学会の学術用語解説集には
ショックとは
「生体に対する侵襲あるいは侵襲に対する生体反応の結果、重要臓器の血流が維持できなくなり、細胞の代謝障害や臓器障害が起こり、生命の危機に至る急性の症候群」
と定義されています。

簡単に言うと、ショックとは
全身の各細胞に十分な酸素や栄養が行き届かず
代謝障害・臓器障害がおこる状態です。

 

以下にショックの診断基準を掲載します。

以上の基準でショックの診断を行います。

 

循環の3要素

ショックの分類を理解するためには
循環の仕組みを理解しておくことが大切です。

まずは、循環の仕組みとして
「血圧の仕組み」「循環の3要素」
を説明します。

血圧とは

心臓が収縮して血管に血液が流れる際に
血流が血管の壁を押す圧力のことです。

血圧=心拍出量×末梢血管抵抗
の式で表されます。

心拍出量は、1分間に
心臓から全身に送られる血液の量で
1回拍出量×心拍数で表されます。

続いて

循環の3要素とは

「前負荷」「後負荷」「ポンプ機能」
3つの要素からなります。

「前負荷」循環血液量のこと
「後負荷」血管抵抗(末梢血管抵抗)のこと
「ポンプ機能」心臓のポンプ機能のことで
心収縮力心拍数のことを指します。

例えば、「前負荷」が低下するということは
循環血液量が低下することであり
1回拍出量は低下します。

心拍出量=1回拍出量×心拍数
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗

ですので、心拍数・末梢血管抵抗が
同じであれば前負荷が低下することで
血圧は下がるということになります。

同じように
「後負荷」・「ポンプ機能」
低下すれば、計算式上は血圧が下がる
ということになります。

このように、循環の3要素のいずれかが
破綻すると循環不全となり
ショックが起こります。

 

ショックの分類

ショックは、下図に示す通り
4つに分類されます。

 

循環血液量減少性ショック

循環血液量減少性ショックは
「前負荷」の破綻です。

大量出血などにより循環血液量が
減少すると1回拍出量が減少します。

そのため心拍出量を維持しようと
頻脈になり脈拍は微弱となります。
末梢まで血液が行き届かないために
皮膚は蒼白となり、尿量も減少します。

循環血液量減少性ショックを引き起こす
病態としては、大量の出血(外傷、
大量の吐下血、大動脈瘤破裂など)
高度の脱水、広範囲の熱傷などがあります。

対応としては、初期輸液療法として
リンゲル液などの細胞外液の輸液の実施
輸血の検討、止血術(外出血に対する
圧迫止血や血管造影、手術での止血など)
などがあります。

 

血液分布異常性ショック

血液分布異常性ショックは
「後負荷」の破綻です。

何らかの原因による動脈
または静脈の拡張により
血管抵抗が減少、相対的に血管内容量が
不十分になることで起こります。

循環血液量自体は
正常に保たれているのが特徴です。
末梢の皮膚の冷感や
蒼白が起こらない場合があります。
(敗血症でのウォームショック)

血液分布異常性ショックを
引き起こす病態としては
敗血症(敗血症ショック)
アナフィラキシー(アナフィラキシーショック)
脊髄損傷(神経原性ショック)などがあります。

対応としては初期輸液療法を実施しつつ
血管収縮薬
(ドパミン、ノルアドレナリンなど)の
投与、敗血症に対しては
抗菌薬の投与も行います。

 

心外閉塞・拘束性ショック

心外閉塞・拘束性ショックは
心臓自体は元気であるにもかかわらず
心臓の外側で起きた問題により
心臓のポンプ機能が障害された結果
心拍出量が低下して起こるショック状態です。

心外閉塞・拘束性ショックを
引き起こす病態としては
肺塞栓症、心タンポナーデ、緊張性気胸
などがあります。
初期輸液などのショックの対応をしながら
原因に応じた治療を行います。

 

心原性ショック

心ポンプ機能の低下により、全身の臓器に
血液を十分に送り出せない状態で
全身の組織における循環不全が生じ
低酸素、アシドーシス、毛細血管透過性亢進
をきたします。

心原性ショックを引き起こす病態としては
■ACS(急性冠症候群)
■心筋炎・心筋症
■弁膜症
■不整脈
などがあります。

対応としては、輸液や昇圧剤の投与の他に
IABP(大動脈バルーンパンピング)や
人工心肺補助装置の使用を行うこともあります。

 

ショックの認識と初期対応

ショックに対する対応として最終的には
ショックの分類や原因を特定し
その根本治療を行うこととなりますが
ショックの初期対応では
「早期のショックの認識」
「ショックの初期対応」が非常に重要です。

前述したとおり、ショックとは
組織に十分な酸素や栄養が行き届かず
代謝障害や臓器障害を引き起こす
重篤かつ緊急性の高い病態です。

そのためショックを早期に認識し
初期対応を行うことが
患者の生命の危機を救います。

そこでショックの進行経過を考えてみましょう。

下図はショックの進行を模式的に表した図です。

 

循環血液量減少性ショックを
例に考えてみましょう。

循環血液量が徐々に減少していくと
ショックが進行するわけですが
最初は生体の代償機転が働き
急に血圧低下や意識障害が起こるわけでは
ありません。

循環血液量が減少すると
1回拍出量が減少します。

心拍出量を増加させるために
交感神経が働き頻脈になります。
また末梢の皮膚は冷たく湿潤になります。
CRT(毛細血管再充満時間)の
延長もみられます。

このように代償機転が働き
主要臓器への血流を維持しようとしますが
循環血液量の低下がさらに進むと
代償機転が破綻します。

するとここからは加速度的にショックが進行し
血圧低下、意識障害、呼吸状態の悪化も
出現し、最後は心停止に至ります。

代償機転が働いている時期を
「早期ショック(代償性ショック)」
代償機転が破綻し急激にショックが進行していく
時期を「晩期ショック(低血圧性ショック)」
と言います。

ショックの対応では、この代償性ショックの間に
ショックを認識し、医師を含めたチームで
情報を共有し、心停止を回避するための行動を
とっていくことが非常に大切です。

ショックの症状として有名なのが
「ショックの5P」です。

“ショックの5P”

1.蒼白(pallor)
2.虚脱(prostration)
3.冷汗(perspiration)
4.脈拍触知不能(pulseless)
5.呼吸不全(pulmonary deficiency)

このうち一つでも該当すると
ショックが疑われると救急のテキストなどには
記載されています。

しかし脈拍触知不能や呼吸不全は
代償機転が働いているときは
見られないこともあります。

そこで、ショックの早期認識のために
以下の方法をご紹介します。

【ショックの認識】
触って、脈診て、押してCRT+血圧

触ってでは、末梢の皮膚を触知し冷感や
湿潤の有無を確認します。

脈診てでは、橈骨動脈を触知し
まずは橈骨動脈触知が可能か、可能ならば
脈拍数や脈の強さを確認します。

押してCRTですが、CRTとは
毛細血管再充満時間のことです。

親指の爪の部分を5秒押します。
すると爪床色が白くなると思います。
5秒後に押しているのをぱっと離すと
爪床色はピンク色に戻ると思います。
通常2秒以内に色が戻りますが、戻るのに
2秒以上かかる場合は
末梢の循環不全が考えられます。

ただし、寒い冬の外などでは
循環不全が無くとも、色が戻るのに
2秒以上かかる場合もありますが
室温管理されている
病院・施設・家庭内などでは有効です。

この「触って、脈診て、押してCRT」
末梢の冷感・湿潤、頻脈、CRT
の延長が見られる場合は
ショックが疑われます。

そのうえで血圧も測定し代償性ショック
なのか、すでに低血圧性ショックに
なりかけているのかを判断します。

この「触って、脈診て、押してCRT+血圧」で
ショックを早期に認識することが重要です。

次に、ショックを認識したら
患者が心停止へ移行しないように行動します。

まずは情報共有です。

リーダーや主治医・当直医へ報告し
情報を共有します。
それと並行し、患者対応のために
応援要請も必要になるでしょう。

病院であれば患者にモニター装着し
酸素投与、点滴確保の準備を進めます。

急変に備え
救急カートの準備も忘れてはいけません。

施設や在宅の場合は、すぐに担当医師や
かかりつけ医に連絡し
救急要請も検討が必要です。

病院ではショックの原因検索のために
検査を実施することになると思いますが
検査のために移動する前に
必ず気道・呼吸・循環の評価を行います。

ショックの分類や原因は多岐にわたりますが
初期対応においては基本同じです。

ショックの早期認識と初期対応が
重要であることを重ねて強調しておきます。

 

 


急性期ケア専門士は急性期ケア・急変対応におけるスペシャリストです。

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状態変化の兆候をいち早く察知し、アセスメントから初期対応、医師への報告など急性期におけるケアの実践を行えることを目指す資格です。

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