早期発見が命を救う!「脳ヘルニアを見つけ出すポイント」
記事執筆: 訪問看護ステーションここりんく 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
長濱 雅子
- 目次
脳ヘルニアとは
脳ヘルニアとは、頭蓋内に出血、腫瘍、脳浮腫、水頭症等により、頭蓋内圧が異常亢進した際に脳組織の一部が一定の境界を越えて押し出された状態の事を言います。
発生部位と嵌入する部位によっていくつかの種類に分けられます。
-
- 帯状回ヘルニア
大脳鎌下ヘルニア
- テント切痕ヘルニア
下行性ヘルニア、上行性ヘルニア
- 大後頭孔ヘルニア
小脳扁桃ヘルニアなど
- 帯状回ヘルニア
脳ヘルニアの原因
脳ヘルニアは、頭蓋内の病変(出血、腫瘍、脳浮腫、水頭症)による頭蓋内圧亢進が異常に進行することにより発生します。
頭蓋内は、元々、脳実質・動脈血・静脈血・髄液によって容量が100%のため、少量の病変でも頭蓋内圧亢進状態に陥りやすいです。脳ヘルニアが起こると、逸脱した組織の循環障害や脳幹部の圧迫により生命維持が困難になる危険性があるため早期発見・早期治療が重要となります。
要するに、脳ヘルニアになる前段階で発見する事がポイントです。
脳ヘルニアの徴候:プロが教える現場のHow To!
「脳の12神経」から考えると判断しやすい
脳の12神経を思い出してみてください。国家試験の時に一度は覚えたあの「嗅いで視る・・・」です。
この「12神経の位置」を覚えておくと観察のポイントが理解しやすくなります。脳ヘルニア徴候を一秒でも早く気づくためには、この位置を覚えておき「もしかして頭蓋内圧亢進が進んでいる?」に気づく事が大切となります。
目の異常に気が付く
先ほどの「12神経の位置」をイメージしてください。
病変がある場所にもよりますが、頭蓋内圧が亢進し圧を逃がそうとすると頭蓋骨側(外側)には圧が逃げる事はできません。必然的に柔らかい壁のない方向(脳幹部)に向かって圧がかかります。
12神経の一番上の神経は、「嗅神経」その次は「視神経」です。しかし、この2つは見た目の変化が分かりません。
その次に、重要となるのが脳幹部の一番上部にある「中脳」から出ている「動眼神経」です。この神経は「眼球運動・眼瞼挙上・縮瞳・対光反射」に関連しています。脳神経の患者さんを見るときに「目」を確認すると思いますがこの「両目」の観察が重要となります。
「対光反射が出ていない」「瞳孔不同がある」は命の危険のサインです。呼吸の変調が出てしまうと手遅れになる場合があるため、まず「目」の異常に気づく事がポイントです。
クッシング現象
また、頭蓋内圧亢進の際に起こる症状としては「クッシング現象」があります。
「血圧の上昇」「徐脈」が主な症状です。「意識障害」「頭痛」「嘔吐」にも注意が必要です。小脳に病変がある場合は、脳幹部の「橋」「延髄」に圧がかかりやすいためすぐに呼吸の変調をきたしやすいです。目の観察も大切ですが小脳の病変の場合は、このクッシング現象にも注意が必要となります。
ケアのポイント
悪化させないケアのポイント
ポジショニング
臥床時は、頭部を15~30°挙上させた体位とし頭蓋内静脈圧や髄液圧の低下を促します。
頸部は屈曲を避け安楽に呼吸できるよう配慮します。枕の高さや硬さなどを調整しましょう。枕が周囲にない場合は、バスタオルなどで代用するのが良いと思います。
体温管理
発熱は脳代謝を亢進させるため頭蓋内圧上昇の因子となります。
解熱剤の投与に加え、冷罨法を行うことで解熱を促し体温を管理します。(ちなみに、脳ヘルニアが進行し始めると、解熱剤を投与しても熱は下がらない事が多いです。冷罨法を継続して脳ヘルニアの治療を進める必要があります。)
呼吸ケア
咳やくしゃみは頭蓋内圧を上昇させる因子となります。
状態が安定しない患者さんに対しては適切な酸素投与を行い、気道内分泌物の貯留がないよう浄化を促進させます。痰の自己喀出ができる場合は痰を出しやすい姿勢に整えるなど工夫を行い、夜間睡眠中の呼吸にも注意します。
気管挿管中の患者さんでは、効果的な痰の喀出のために適度な加湿を行うとともに体位ドレナージを意識しながらポジションを整え吸引を行います。(吸引も頭蓋内圧を亢進させやすいため、短時間で効果的に吸引できるようにしましょう。)
感染予防
感染による発熱を予防するため口腔内は清潔に保ちます。特に、嘔吐後は吐物による気道閉塞や誤嚥を防ぐためにも速やかに口腔ケアを実施します。
また、排泄後の陰部のケアもこまめに行い尿道カテーテル管理中も常に清潔を保つことが重要です。
排便コントロール
排便によるいきみは頭蓋内圧を上昇させます。水分バランスを管理して便秘を予防し腹部の温罨法や緩下剤を使用するなどして排便を促します。浣腸は、頭蓋内圧を上昇させるリスクがあるため使用しません。
症状に対するケア
頭痛
頭痛は急性・慢性にかかわらず起こる症状です。特に急性の場合、短時間で重篤な状態に至るおそれがあるため、緊急を要します。
頭部CTなどの検査で状況を把握したうえで原因を除去し、速やかに薬物療法の実施や外科的治療の準備を行います。頭蓋内圧亢進による頭痛では頭痛が生じている部位や痛みの程度、持続時間、痛みが増強する時間帯、随伴症状の有無、浸透圧利尿薬投与後の症状の変化について、患者さんに問診しながら詳細に観察します。
頭痛の緩和には安静と安楽な体位の保持が大変重要です。患者さんと相談しながら安楽で頭蓋内圧の低下につながるポジショニングを行います。
精神的不安や疼痛、不眠などからくるストレスは、交感神経の活動を高めてアドレナリン分泌を誘発し脈拍や血圧の上昇を促します。具体的には適切な薬剤の使用、話ができる場合は不安の傾聴などサポートをします。
嘔吐
頭蓋内圧亢進による嘔吐は、悪心を伴わず突然起こるため、吐物が原因で誤嚥性肺炎を発症したり窒息が生じたりしないよう十分注意します。
嘔吐を繰り返すと胃酸が排出されるほか浸透圧利尿薬を投与されている場合は代謝性アルカローシスとなり電解質バランスの不均衡が生じる可能性があります。嘔吐回数、量、性状、血液データの結果を確認しておきます。患者さんへの援助としては、突然の嘔吐にすぐ対応できるようにあらかじめガーグルベースンや処理キットを準備しておきます。
嘔吐によって衣服や周囲環境が汚染された場合は、患者さんの安静と安楽な姿勢を保持しながら清潔を保てるよう、速やかにケアや環境調整を行います。
また、うがいの水にレモン汁を少し含ませるなど、口腔内がさっぱりするように工夫してみるのも良いでしょう。
脳ヘルニア徴候の報告の仕方
緊急性を要する医師への報告では「SBAR」を使って情報を整理するよう、心がけましょう。
S「お疲れ様です。〇病棟看護師の×です。□先生、今、時間大丈夫ですか? 昨日、脳出血で入院した、△さんの状態で急ぎの報告です。」
B「(12時10分報告)12時に観察のため声をかけましたが、反応が悪いため、バイタルサインを測定しました。入院時はJCSⅡ-10でしたが、現在は、Ⅱ-30、血圧180/90mmhg、脈拍45/分、不整なし、体温37度、呼吸は規則性、瞳孔右2.5左4.0、対光反射は右あり、左微弱です。1時間前の観察では、瞳孔不同はなしです。」
A「頭蓋内圧が亢進していると思われます。」
R「頭部挙上し、嘔吐予防に注意しています。挿管できるように準備をしていますが、他に準備するものはありますか?」
Dr.「点滴のグリセオール200mlを全開で開始しておいてください。すぐに向かいます。」
R「承知しました。」
医師への報告は、簡潔にできるよう情報をまとめましょう。今すぐ来てほしいか、指示が欲しいだけなのか、分かりやすく聞くことを意識するとよいかと思います。
急性期ケア専門士は急性期ケア・急変対応におけるスペシャリストです。
状態変化の兆候をいち早く察知し、アセスメントから初期対応、医師への報告など急性期におけるケアの実践を行えることを目指す資格です。
また、病院だけでなく地域医療に携わる医療スタッフの方にも、在宅時から基幹病院へ【命のバトンをなめらかに】つなぐために実践できるノウハウを習得できます。
もしもの時の対処に自信がない方や、急変対応をもっと深く学びたい方は、ぜひ受験をご検討ください。