日本急性期ケア協会について

学術顧問の
あいさつ

笠原正登教授

この度、日本急性期ケア協会の学術顧問として、
奈良県立医科大学附属病院 臨床研究センター iCATsのセンター長である
笠原正登教授に就任いただきました。
就任のご挨拶として、笠原教授にお話を伺いましたので、その様子をお伝えいたします。

急性期の現場はどこにでも同じようなしんどさがある

臨床研究センターでのご活動についてお聞かせください。

センターでは、研究の一貫として新しい医薬品の治験を行ったり、臨床研究の実施・指導を行っています。
最近であれば、人工赤血球の研究発表を行いました。
人工赤血球には血液型がないので、輸血時に検査を省略でき、15~30分の時間短縮が見込めます。
また、常温での保存が可能なため、救急車やドクターヘリに常備することができます。

奈良県立医科大学附属病院は安倍元首相が運ばれてきた病院でもあり、人工赤血球の研究はそのリベンジでもありました。
人工赤血球の実用化が進めば、急性期の現場にも変化があると思います。

急性期医療の現場にはどんな印象をお持ちですか?

急性期医療の現場は、どこにでも同じようなしんどさ・孤独感があると感じています。
私もかつて、三次救急の神戸市立中央市民病院(現:神戸市立医療センター中央市民病院)に勤務していたことがありますが、夜間に当直を行う際は眠る時間はほとんどありませんでした。
当直中の入院患者はそのまま自分が主治医となることが多いので、翌朝やそれ以降も私が指示を出し続けることになります。
もちろん、翌日以降は他の業務がいつも通りあり、それが当たり前でした。

救急に関わる医療者は突然の事故に対応しなければいけず、十分に準備をする時間はなかなかありません。
たとえ、他に絶対にやらなければいけない仕事があったとしても、自分が「NO」と言ってしまえば亡くなってしまう命があるわけですから。
この「自分がやらなければ他にやる人がおらず、責任も大きい」というしんどさは、孤独感にも繋がります。
なので、日本急性期ケア協会のような場で悩みを共有できるようにしたり、現場の人をひとりぼっちにさせないことはとても大事だと思います。

急性期医療の新たなスタンダードを作る

急性期ケアにはどのような教育が必要でしょうか?

急性期医療のスタンダードをきちんと整備することが大切だと考えています。
もし急性期ケアのスタンダードを感覚で決めてしまうと、人によって異なる解釈ができてしまうため、業界全体に普及することは難しいでしょう。
そこで臨床研究の手法を用いると、ある条件の下でAのケアとBのケアのどちらが優れているか、学術的に結論を出せるわけです。
異なる2つの方法のどちらが優れているか、医師の世界では学術的な比較がよく行われるのですが、ナースの世界ではまだ感覚に頼っている部分があると思います。
「自分が行っている方法が本当に正しいのかどうかわからない」というのが、皆さんを悩ませる要因になっていると思います。
「ここまではスタンダードで、ここから先はオプションです」と誰かが決めてくれたら、もう少し皆さんの気が楽になるのではないでしょうか。

急性期ケアにも臨床研究の考え方を用いることで、スタンダードを作っていける、というわけですね。

そうですね。
スタンダードを作るということは、「これが標準的なやり方です」と示すことになります。
「標準的である」というには、他に比べてこれが最も推奨されるということを示さなければなりません。
そのためには、いくつかあるオプションを比較検討する必要があります。

そういったスタンダードは個人ではなかなか決められません。
やはり、団体でやるとなれば、こういった協会の力は大きいと考えています。

笠原正登教授

次の医療のきっかけをいつも考えていたい

これからのご自身の活動で、どんなことを目標とされていますか?

いつも後輩の医師に伝えているのは「内科医は薬を作れ。
外科医は自分の名前が入った手術法を作れ。」ということです。
私は内科医なので、今はやはり人工赤血球の研究に注力していきたいです。

医師は知識を覚えるのが仕事だと勘違いしてはいけないと思います。
たとえば外来を受診した時も、病気の名前がわかれば治療法がわかるのですが、その治療法が100%有効であるとは限りません。
現在普及している治療を行っても効き目のない人が、どうしても何人か存在するわけです。
そういった患者さんの診療のために予習をしていると、やるべき治療はすべて終わっていて、患者さんに対してこれ以上何も行えることがないということに気づきます。

何も手段が無くなった人に次の一手をどうするか常に考えている医師でないと、次の医療は思いつきません。
医師は「これだけの医療を覚えました」ということに満足してはいけません。
ナースについても、「これだけのことを覚えました」という人と「これでは足りないので次の一手を勉強しました」という人では、だんだん差が生まれてくるように感じます。
私がスタッフを教育する際は、「次の一手を考えられる人を育てたい」といつも考えています。
日本急性期ケア協会の活動でも、そういった人を育てられるようにしていきたいです。

笠原 正登

内科学会認定医・指導医、腎臓専門医・指導医、透析専門医・指導医日本臨床薬理学会指導医

1992年
京都大学医学部附属病院
1993年
大阪府済生会中津病院内科
1995年
京都大学大学院医学研究科博士課程(脳統御医科学系専攻) 入学
1999年
神戸市立中央市民病院腎臓内科(内科副医長)
2006年
京都大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科 特任講師
2011年
京都大学大学院医学研究科 EBM研究センター 特定准教授
2015年
奈良県立医科大学附属病院 臨床研究センター長
2019年
奈良県立医科大学大学院臨床実証学講座 教授/臨床研究センター長

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