救急の現場で求められる意思決定のポイント~慢性疾患の増悪時~
記事執筆:
- 目次
慢性疾患の増悪
厚生労働省のデータによると、超高齢社会に突入している日本では、高齢者の6割が何らかの慢性疾患を有していると言われています。大雑把に考えても救急外来に搬入される高齢者の半数は慢性疾患の増悪であると考えられます。慢性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎不全…病名を挙げればきりがないですね。
慢性疾患は増悪と寛解を繰り返しいずれは「死」に向かって徐々に進行していくものです。特に高齢者の慢性疾患憎悪は、常に「死」に進んでいるのですね。
慢性疾患の対処としては原則対症療法です。そして生活指導や薬物コントロール、リハビリが大切となりますが慢性疾患の憎悪は進行性で完治は望めないことが多いのです。
カルテからの情報
搬送先の施設がかかりつけ病院ならば過去の検査データがあります。その患者さんの過去のデータがあることによって、今回の増悪でどの程度悪化しているか、改善の余地があるか、入院し対症療法の方法があるかなど、多くの医療や看護の情報を得ることができます。やはり、かかりつけ病院を持つことはとても重要です。
もし、かかりつけ病院ではない施設でも、積極的にかかりつけ病院から診療情報を取り寄せていただきたいと思います。慢性疾患の憎悪において過去の診療情報や検査データはとても重要な判断材料となります。
本人や家族にその場で確認する事
患者に意識があればもちろん患者の意思が最重要ポイントです。そのためには、慢性疾患を診断された時から急性増悪時に「どのような処置を望むか」を患者・家族・医療者で共有しておくことが重要です。
例えば、患者に「意思決定できる判断力がない」「家族が間に合わない」あるいは「家族は知らなかった」など急性期の現場では起こりうる事態です。
この場合は本人又は家族が意思決定できるまで、最善の医療処置を行い続けるしかありません。慢性疾患の憎悪で重症の場合、「最善の処置」は患者を傷つけ尊厳を奪うことになるかもしれません。慢性疾患で進行性の場合はなるべく早くに本人、家族に増悪時のどこまで処置を望むかと行った判断をしていただくことが重要です。
救急チームの医師と看護師の関わり
慢性疾患で急性増悪が考えられる患者に対し、医師は十分なインフォームドコンセント(informed consent:IC)を行い、事前に方針を決めておく必要があります。看護師は医師の説明をさらにわかりやすく解釈し患者、家族の疑問、不安の解決の支援をしておきます。これらが適切にできれば、信頼関係が生まれることも期待できます。看護師はあくまでも患者側に立って援助することが重要です。
病棟への引継ぎ
患者の状況によってはERで完結しないこともあります。その後入院になり救急部から病棟へと移っていきます。医師は比較的そのまま「主治医」となって患者に引き続き介入します。看護師の場合は、病棟看護師に状況を引き継ぐ必要があります。
そのためにはカルテの記載がとても重要になります。「治療に対する受け入れ」「終末期への考え」など多くを記載し病棟看護師に引き継ぐ必要があります。電子カルテならば「患者コメント」など特殊なタグで伝達することが出来ますが、そうではない場合、看護師は互いにしっかりと患者・家族の思いを伝達し、患者・家族の望むケアを行うことが必要になります。
DNARのある患者
DNARの意思表示がある患者は、心肺停止時の胸骨圧迫拒否や挿管による人工呼吸の拒否、昇圧剤の拒否など様々です。DNAR宣言のある患者には患者が求める最低限の処置にとどめます。残された時間は、患者の尊厳を重視し、家族との時間や患者が望む時間に重点を置きます。必要であれば鎮痛や環境への配慮を行い、見取りとなっていくと心得ましょう。
超高齢化による慢性疾患・基礎疾患の増悪による要医療体制は増えていくと考えられます。
患者の尊厳を守りつつ看護していくことも今後の医療者として知っておかなければいけないことなのです。
急性期ケア専門士は急性期ケア・急変対応におけるスペシャリストです。
状態変化の兆候をいち早く察知し、アセスメントから初期対応、医師への報告など急性期におけるケアの実践を行えることを目指す資格です。
また、病院だけでなく地域医療に携わる医療スタッフの方にも、在宅時から基幹病院へ【命のバトンをなめらかに】つなぐために実践できるノウハウを習得できます。
もしもの時の対処に自信がない方や、急変対応をもっと深く学びたい方は、ぜひ受験をご検討ください。