オーバードーズの救急対応~身近に潜む中毒たち②~
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OD(オーバードーズ)の現状
OD:オーバードーズとは
オーバードーズとは、医薬品を、決められた量を超えてたくさん飲んでしまうことを指します。特に最近SNS上では、感覚や気持ちに変化を起こすためにかぜ薬や咳止め薬などを大量に服用することを「オーバードーズする」「ODする」などと使われています。
医薬品の過剰摂取が原因と疑われる救急搬送は年々増加しています。その内訳はどのようになっているでしょうか。
年代別にみると20代が最も多く、次いで30代、10代となります。そして、そのほとんどが女性であることが大きな特徴です。
医薬品の過剰摂取は、多くの場合は軽症で済むものの、中には集中治療室での治療が必要となったり、後遺症が残ったりする場合もあります。
厚生労働省 医薬品の過剰摂取が原因と疑われる救急搬送人員の調査結果(mhlw.go.jp)
ODの急性期医療
治療の基本方針
前回のカフェイン中毒の回でもお伝えしましたが、中毒に対する治療の基本方針を再度確認しましょう。まずはこれを押さえておくことが大切です。
- 全身管理
- 吸収の阻害
- 排泄の促進
- 解毒薬・拮抗薬の投与
速やかに点滴ラインを確保し、全身管理を行いながら、原因薬物の特定と吸収阻害のための処置を行います。
さらに、ODなどの急性薬物中毒では、迅速な原因物質の特定が生死にかかわります。迅速な特定には尿や唾液から簡易に検査できるキットもありますので必要に応じて活用を考えても良いでしょう。
ODの治療で確認するポイント
さて、ODによる救急搬送があった場合、まず何を確認しますか?それは、「いつ、何を、どのくらい、どうやって飲んだか」ということです。救急要請をされた方に、分かる範囲で確認します。何を飲んだかによって現れる中毒症状が異なります。薬物によっては死に至るものもあるため、大切な情報となります。舌根沈下や咽頭反射の減少が見られた場合は、ただちに気管挿管を考慮します。
【医薬品による中毒症状】で代表的なものはこれらがあります。
睡眠薬
ベンゾジアゼピン系
運動失調・傾眠・構音障害・呼吸抑制など。他に、中枢神経抑制薬などの併用が無ければ大量服薬による死亡は少ない。
バルビツール酸系
嘔吐・悪心、血圧低下、ショック、呼吸抑制、昏睡、体温低下など。意識・呼吸・循環障害が出て重症化しやすい。手・臀部・膝の内側に水疱ができる。
解熱・鎮痛薬
アセトアミノフェン
大量服薬でも無症状の場合がある。服用後1~3日で肝機能の異常が起こり、黄疸や出血、肝機能障害が起こる。さらに3~5日後に肝細胞壊死となり重篤な肝不全に陥る。
アスピリン
嘔吐、過呼吸、耳鳴り、傾眠が起こる。呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシスが混合する。重症の場合、昏睡、痙攣、低血糖、高体温、肺水腫が起こり、中枢神経不全・心血管の虚脱により死亡する。
精神病薬
フェノチアジン系
心伝導系障害による低血圧、不整脈、錐体外路障害、悪性症候群、意識障害が起こる。
ブチロフェノン系
口渇、排尿障害、錐体外路障害、悪性症候群、眼圧上昇など抗コリン作用症状や、意識障害、心電図で幅広QRS不整脈、低血圧などがある。
オーバードーズの救急処置
胃洗浄
命に危険な量の服毒の疑いがあり、服用後1時間以内の場合に考慮します。
方法
・意識障害や咽頭反射が弱い場合は、前もって気管挿管を行う
・左側臥位で頭低位(15度程度)とし、34~36Fの管を口から挿入して、胃内容物を吸引します。
・1回の注入量は200~300mLとし、洗浄液がきれいになるまで注入・排液を繰り返します。
・成人は微温湯、小児では加温した生理食塩水で洗浄します。
禁忌
・胃の生検や手術を受けた直後で、出血や穿孔の危険がある場合
・強酸や強アルカリなどの腐食性毒物を服用した場合
・石油製品を服用した場合
活性炭
方法
・意識障害や咽頭反射が弱い場合は、前もって気管挿管を行う
・胃管を挿入し、胃内容物を吸引後に注入する
・投与量:成人50~100g 小児約25~50g
・成人では微温湯300~500mLに溶解、小児では10~20mL/kgの生理食塩水に溶解(ソルビトール溶液・クエン酸マグネシウムなどの緩下剤を併用)
禁忌
以下の物質は活性炭に吸着されないため無効
・アルコール類
・アルカリ
・フッ化物
・鉄
・ヨード
・無機酸
・青酸化合物
・カリウム
・リチウム
・エチレングリコール
参考資料
ゼロからわかる 救急・急変看護 成美堂出版
ODとの大切な関わり方
ODによる救急搬送は、意識障害がある場合一刻を争う事態となります。意識障害や呼吸不全の急変患者が搬送されてきた場合は薬物中毒を疑い対応を進めることが重要です。
また、ODは根本的な問題を解決しないままだと、回復しても同じ事を繰り返す場合が多くあります。その場合、身体面の治療に加え、精神面でのサポートが必要になります。繰り返してしまう要因をアセスメントし、精神的・社会的背景も含めたサポートを考慮しましょう。急性期の症状が落ち着けば、専門家による治療やケアを受け、繰り返さないような対策を行うことで改善に向かいます。
厚生労働省のホームページ「一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について」の項目には、相談窓口の案内もあります。ご活用いただければと思います。
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