現場に活かせる山岳医療~事例から学ぶ発想転換!~【PROto】
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講義概要
『プロのHOW TOをプロから届ける』をコンセプトに、プロの頭の中にある原型となる考え方
「プロト」を、プロから皆さまへお届けするセミナーイベント「PROto」を開催しました。
講師:槍ヶ岳観光株式会社 槍ヶ岳山荘看護師 坂本陽先生
日時:2024年6月19日
セミナー:「現場に活かせる山岳医療~事例から学ぶ発想転換!~」
山やへき地の何もない環境で、どうアセスメントし、環境を味方にして知恵を働かせるか。坂本先生のご講義では、山岳医療で実際に行っている事例をもとに、「整っていない環境でも医療に活かせる発想転換」を知り、救急医療とのつながりを学ぶセミナーとなりました。
山での急性期医療の活かし方
ウィルダネス状況下での対応
山でも「これはやばい!」をキャッチ!
山岳医療におけるABCDEアプローチ
前半の講義では、ウィルダネス状況下における山での傷病事故の対応や、登山中におけるトラブル予防についてのお話がありました。
山岳という現場から、最寄りの医療機関までは約10時間、救急要請をしても3~4時間以上はかかってしまうため、「これはやばい!」と早期に判断し対応する必要があります。
ここで重要なことは、救助者の安全確保が第一であるということです。助けたい気持ちはあるけれど、安全確保が困難な状況では出動はしない、慎重な判断が求められます。
「これはやばい?」と初期評価を行い、ABCDEアプローチを活用して一次評価を行いますが、山岳ならではのアプローチがあります。
聴診器や血圧計は使用せず、視診・触診のみで判断してショック徴候が出ていないかを確認し、一般の救助者でも理解しやすいAVPUという意識レベルの評価ツールを使用します。また、正確な体温が測定できないため、傷病者の周りの環境(天気・季節・風速)に着目し、低体温・高山病症状には特に注意しなければなりません。
山岳医療の発想転換
山小屋での対応について
耳の中の虫が出ない!?
風速30m級での救助要請!
後半は、山小屋内で行われる山岳医療についての内容でした。
耳の中に虫が入った事例では、業務用ライトに紙コップをガムテープで巻き付け、山小屋お手製ライトを作成し虫をおびき出したり、麻酔薬を使用し虫を鎮静したりと、最悪の結果にならずに対応できた内容でした。
もう一つは、風速30m級の天候における低体温疑いの事例でした。
小屋の一室を利用し、布団・洋服・湯たんぽを使用して保温し、心電図モニターを装着し、経過観察をしながら対応しました。
どちらの事例も山小屋にあるもの、マンパワーを駆使することで対応できた事例でした。
まとめ
山岳という環境下でも急性期医療は活かされていること、急性期ケアから学べる知識や技術は、例え病院という現場でなくとも誰かのために活かされるものです。皆さんからいただいた感想からも、普段は知る機会の少ない山岳医療に興味があったことが伝わってきました。
坂本先生のご講義は、急性期医療の大切さ、医療職者の可能性を示してくれたものとなりました。
参加者からのご質問
当日いただいた質問に、坂本先生よりご回答いただきました!
Q. AEDなど電子医療機器が寒さで使用できないトラブルはありますか?
A. 小屋の中でもシーズン中は−10℃以下になることもありますが、メーカーさんから使用できると言われております。実際にそこまで気温が低い時には使用したことがありませんので使用できない可能性もありますが、実際には外での現場に関しては、搬送を優先するので外での事案にA E Dを持っていくことはありません。
Q. 搬送まで時間がかかるとき行い続けなければならないことはありますか?
A. A B C D Eアプローチに沿った観察・介入は継続的に行っています。必要であれば、モニターを使用しながらバイタルサインの定時測定も行っていきます。
Q. その場で点滴や酸素投与などもされますか?
A. 必要があれば、医師からの指示のもとで行うことは可能です。ただ、医療資器材が限られておりますので、その処置をすることによって明らかに回復傾向がみられると予測できるような場合にしか行いません。したがって、私は今年で3年目ですが、シーズン中に実際に行ったことは一度もありません。
Q. 夜に体調が急変した場合はどう対応されていますか?
A. 私個人の判断で対応ができない場合には、夏山診療所の関連医療機関と連携をとっておりますので、必要時にはそこの医療機関の救急部の医師の指示を仰いで可能なことを行っていきます。ただ、最悪C P Aになったとしても、資器材とマンパワー的にB L Sの範疇でしか行えないので治療介入の限界はあります。
急性期ケア専門士は急性期ケア・急変対応におけるスペシャリストです。
状態変化の兆候をいち早く察知し、アセスメントから初期対応、医師への報告など急性期におけるケアの実践を行えることを目指す資格です。
また、病院だけでなく地域医療に携わる医療スタッフの方にも、在宅時から基幹病院へ【命のバトンをなめらかに】つなぐために実践できるノウハウを習得できます。
もしもの時の対処に自信がない方や、急変対応をもっと深く学びたい方は、ぜひ受験をご検討ください。