在宅看護における急変対応➀(日中訪問時の場合)
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事例紹介
人物紹介
60代 男性 咽頭がん末期 ご本人・家族の希望もあり在宅療養中。
嚥下障害がありつつ、妻の手作りのミキサー食を摂取できる。
痛みはあまりなく、自宅での生活は、ほぼ自立している
経緯
咽頭がんに対して、放射線治療、化学療法などを実施していたが、体力の低下もみられ、本人・家族の意向を確認し積極的な治療を終了し、在宅での療養生活を行うこととなった。緩和ケア病棟の登録も並行して行ったが、基本的には自宅での看取りを希望されている。
ある日、在宅医の定期往診日に発熱しており、検査の結果「新型コロナ陽性」との診断。同日には抗ウイルス薬が処方された。在宅医から訪問看護ステーションにも連絡があった。
発熱するまでは、ご本人の状態も落ち着いていたため、2回/週の訪問頻度であったが、妻とも相談の上、往診日の翌日に追加で訪問を行うこととなった。
翌日の朝に妻から「昨日に比べて、かなりしんどそうにしています。早めに訪問に来てほしい」と連絡があり訪問した。
状態把握
アセスメント
新型コロナ陽性との診断がされていたため、訪問看護師は防護服を着用し、感染予防対策をして訪問。
〈訪問時のバイタルサイン〉
・意識レベルJCSⅡ-10(受け答えはいつもより鈍い)
・体温39℃、血圧80/60mmHg(いつもより低め)、脈拍100台、呼吸回数25回/分、SpO2 70%
・シバリングなし、チアノーゼあり、咽頭ゴロ音著明、肺雑音は両肺に聴取される
今朝も歩いてトイレまで行ったが、意識はもうろうとしており、転倒したと本人より報告あり。黄色の粘稠な痰が多量に吸引できたが、SpO2は上昇せず。
在宅酸素は未設置。新型コロナウイルス感染症に対する内服薬は飲めていなかった。
対応
①他の訪問看護スタッフにも状態を共有し、応援を依頼する
妻に、昨日からの状態を確認。本人は、苦しい中であるが会話は成立している。
状態はかなり悪いが、原疾患での急変ではなく、適切な治療により回復する可能性も高いため、救急搬送の対象と判断し、本人・妻に救急搬送の必要性を説明する。
②在宅医に電話で状態を報告する
この際、在宅医によるオンライン診察が可能であったため、ご本人の状態を診てもらう。在宅医からも、救急搬送の必要性があると判断があり、その場で本人と妻に説明してもらい了承を得た。
③救急隊へ連絡
病院のように、すぐに酸素は準備できないため、窒息予防として側臥位を取り、吸引をしながら状態を観察する。さらに携帯電話はスピーカーモードで119にかけ、患者のケアをしながら救急隊との連絡を行う。(この時、在宅医は緩和ケア病棟を登録している病院に連絡を取っており、スムーズに搬送できるように手続きを進めている。)
④救急隊が到着するまで
状態観察、ケアを行いながら搬送準備を行う。
玄関から居室までの動線やベッド周囲を整理、妻には保険証・お薬手帳・お金など病院に行く時に必要なものの準備を依頼、他に家族への連絡なども依頼した。
⑤救急隊が到着
救急隊に状態を報告し、酸素投与も開始された。登録されている緩和ケア病棟のある病院に救急搬送された。
振り返り
前日に往診医の診察もあり、内服薬も処方されていたが、体調の急変が起こった。
在宅での関わりに限らず、入院中の患者に対しても、原疾患以外で体調の急激な悪化があった場合に、どう対応するかをイメージしておくことは大切であり、日々、勉強しておくことが重要である。
この方は、末期がんであったが、落ち着いた生活を送られており、新型コロナウイルス感染症に対しての適切な治療を行うことで、体調は回復すると判断したため救急搬送を行った。
その後、新型コロナウイルス感染症に対して治療を行い体調は回復し、緩和ケア病棟へ移り、最期まで穏やかに過ごされた。最期の時間は自宅ではなかったが、ご家族様は「最期まで落ち着いて過ごせて良かった」と話された。
<参考文献>
一般社団法人日本急性期ケア協会
急性期ケア専門士 公式テキスト
全国在宅医療マネジメント協会
在宅看護指導士 公式テキスト
急性期ケア専門士は急性期ケア・急変対応におけるスペシャリストです。
状態変化の兆候をいち早く察知し、アセスメントから初期対応、医師への報告など急性期におけるケアの実践を行えることを目指す資格です。
また、病院だけでなく地域医療に携わる医療スタッフの方にも、在宅時から基幹病院へ【命のバトンをなめらかに】つなぐために実践できるノウハウを習得できます。
もしもの時の対処に自信がない方や、急変対応をもっと深く学びたい方は、ぜひ受験をご検討ください。