心不全患者の「なんか変?」の評価ポイント Part3
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はじめに
前回は、自宅で生活している慢性心不全患者さんの緊急性の判断に迷う際の評価のポイントについて解説しました。
今回は、入院中の心不全患者さんの症状が「何となく悪化している」場合、どう主治医へ報告すれば良いかを事例を通して考えていきたいと思います。
心不全の評価と対応のケーススタディ
事例Bを紹介します。この事例について医師へ報告をしようと思います。あなたなら、どのように報告しますか。
一緒に「心不全症状がどう悪化しているのか、それ以外の症状はあるか」を評価してみましょう。
事例
- 慢性心不全による急性増悪を繰り返して入院中
- 今回も労作時の息切れ、下肢のむくみ、夜間の呼吸困難を自覚して救急搬送されてきた。
入院3日目、点滴による治療を開始し、徐々に症状も改善してきていた - しかし、本人から「何となく、しんどさが出てきている。いつもと様子が違う気がする」とコールがあり訪室
- 体温37.4度
- 酸素1リットル使用中でSpO2 96%
- 血圧90/62mmHg
- 脈拍90回/分、不整あり、モニター波形変動なし、安静時呼吸回数20回/分、呼吸音は右肺野下部で水泡音軽度聴取、喘鳴軽度あり、座位で口すぼめ呼吸をしている
- 湿性咳嗽あり
- 昼食を食べて数時間経過しているが、食事量はいつもより少なめであった。
- 排便は昨日あり
患者の曖昧な表現を医師へ報告する時のポイント
今回のポイントは「患者が訴える『何となく●●』という曖昧な表現をどのように伝えるか」という点ですね。
この「何となくしんどい。いつもと様子が違う」という曖昧な表現、よく病棟でありませんか?
私も、この「何となくしんどい」という訴えを医師へ報告する時に、どのように伝えればよいか困りました。
Bさんの場合、入院して3日目。
心不全の治療を開始し症状は軽減してきているようですが、バイタルサイン的に以下のような悪いポイントが含まれています。
- 微熱
- 頻脈
- 呼吸音の変調
- 湿性咳嗽
- 食事量の減少
心不全の症状の悪化とも、呼吸器疾患の悪化とも考えられる……。この両方を医師へ上手く伝えたいと思います。
「I-SBAR-C」で報告する
そこで、よく活用される方法である「I-SBAR-C」を参考に、得た情報を整理して、簡潔にわかりやすく伝えて指示を仰ぎたいと思います。
I(Identify) | 報告者の氏名、患者氏名、部屋番号など |
S(Situation) | 患者に起きている状況に対するとりあえずの結論 または主訴 |
B(Background) | バイタルサインを含めた評価と Sに関する情報、臨床経過 |
A(Assessment) | 状況評価の結論 (得た情報を基にどう判断したか) |
R(Recommendation) | ・具体的な要請内容、 ・何をしてほしいか を明確に告げる |
C(Confirm) | 指示間違いがないように 復唱して確認 |
報告例
〇病棟看護師のAです。〇〇先生、Bさんの事で報告したいことがありますが、時間は大丈夫でしょうか?
大丈夫です。どうしましたか?
昼食を摂取してしばらくしてから、Bさんから、なんとなく調子が悪い、とコールがありました。
体温37.4度、酸素1リットル使用中でSpO2 96%
血圧90/62mmHg、脈拍90回/分、不整あり、モニター波形変動なし。安静時呼吸回数20回/分
呼吸音は右肺野下部で水泡音軽度聴取、喘鳴軽度あり、座位で口すぼめ呼吸をしており、湿性咳嗽が見られています。
僕も今、入院してからの経過表を見ていますが、呼吸器系の症状が悪化している印象ですね。
そんな印象でした。
今から、胸部レントゲン、採血、痰培のオーダーを出しますので、患者さんに説明をして検査をしておいてもらえますか? 僕も、外来の目途が付き次第、患者さんを診に行きます。
胸部レントゲン、採血、痰培ですね。承知しました。患者さんに説明して検査を進めておきます。
こんな風に、理想的な報告の流れで進められることは少ないかもしれませんが…(笑)
さいごに
「何となく、症状の悪化が見られる」というポイントの具体的な数字や症状を確認して医師に報告することで、一番スムーズに指示をもらえると思います。
「I-SBAR-C」の詳しい内容に関しては、急性期ケア専門士 公式テキスト の「急性期に求められるリーダーシップ」の項目に記載しております。まずは、リーダー看護師や先輩看護師に報告し、情報の整理をしてから医師に報告するとスムーズに伝えられるようになると思います。どんどん経験していきましょう。
次回は、「心不全の緩和治療の考え方」をお伝えしようと思います。
急性期ケア専門士は急性期ケア・急変対応におけるスペシャリストです。
状態変化の兆候をいち早く察知し、アセスメントから初期対応、医師への報告など急性期におけるケアの実践を行えることを目指す資格です。
また、病院だけでなく地域医療に携わる医療スタッフの方にも、在宅時から基幹病院へ【命のバトンをなめらかに】つなぐために実践できるノウハウを習得できます。
もしもの時の対処に自信がない方や、急変対応をもっと深く学びたい方は、ぜひ受験をご検討ください。